四万十川を遡る
「日本最後の清流」 と呼ばれる四万十川(旧名渡川)。全長196km、流域面積2186平方km。流域は急峻な山地に覆われて、森林率は86%に達しています。江戸期には河川の流送による木材資源の利用が盛んとなりスギやヒノキの造林がはじまったとされ、戦後の拡大造林期にさらに進んだ結果、人工林率は70%近い値になっているようです。
とはいえ山深い流域には天然林も残っています。196kmを遡りながら、そうした個所を回ってみました。
せっかく遡るので、早朝まずは河口(四万十市初崎)に来てみました。
ここに長年、川に臨んだタブノキの大径木。幹周は5.6mで高知県3位だそうです。スタートにふさわしい。
平野はすぐに終わり、山間の流れになりました。
有名な沈下橋が続きます。
曇り空ですが新緑があざやか。人工林が多い景観。
川沿いの木々。アラカシ。
アカガシ。
スダジイ。
コナラ。
ムクノキ。
エノキ。
ヤマザクラ。
ヤマグワ。
マグワ。
イヌビワ。
マルバヤナギ、ヤマハゼ。
アカシデ。
クマノミズキ、ニガキ。
スイカズラ。
ヤブニッケイ。
ビワ、アコウ。
ヒサカキ、アオキ。
テリハノイバラ。
フジ。
ムベ。
ツルウメモドキ、テイカカズラ。
梶ヶ谷山・古屋山(四万十町十和)
河口から約60km、四万十町十川から小さな支流久保川に沿った一車線の道路を北に向かいます。山間のわずかな平地に開けた、平家の落人伝説が残る集落をたどって1時間。
標高650mの尾根上、国有林の意外と立派な看板がありました。目的の保護林2か所の斜面上部に車をとめたかたちです。
人工林の急な尾根を下ってアクセス。道標もついていました。この主尾根の東が古屋山、西側が梶ヶ谷山。地図には記載がありませんが、それぞれ最上流の集落の名かと思われます。
まずは梶ヶ谷山。西への尾根を下ります。
ここにはモミを主体とする天然林。
大径木が密度高く生育する様子が見られました。
ツガが混交。
途中から風倒が多く歩道は不明瞭。
モミの実生、稚樹がちらほら。
常緑広葉樹も混交していました。ウラジロガシ。
ホソバタブ。
ユズリハ。
サカキ。
ヒサカキ。
ヤブツバキ。
ハイノキ。下層の優占種。
アセビ。
ネズミモチ。
落葉広葉樹も。コナラ。
ホオノキ。
ヤマザクラ。
主尾根に戻って、もう少し下ります。小雨。
尾根の東、古屋山側に看板。こちら側はアカマツの保護林。
大径のアカマツが見られました。この地域の天然マツは通直で樹脂が少なく、かつては優良な建築用材として「大道マツ」(大道は地名)と呼ばれたそうです。
ただ、マツ枯でアカマツは衰退が進んだとのこと。
看板の個所では地かきしてマツの発芽を促し、その後下刈、間引き、シカ柵の設置などが行われていました。
約20年生、高いものは樹高10m程度。大道マツの再生、たのしみです。
尾根を登り返して帰途へ。
アカシデ。
コハウチワカエデ、エンコウカエデ。
イロハモミジ。
ウラジロノキ。
クロモジ。
ハゼノキ、ウツギ。
コバノミツバツツジ。
ネジキ。
ドウダンツツジ。
コバノガマズミ。
約1.5時間で帰着。
本流に戻る前に、この流域ではもう一箇所。
ここは「日本最古の複層林」として知られる個所。
歩道を10分ほど下った先がそのエリア。
樹種はスギ。まずは木の大きさと通直さに圧倒されました。
看板があったこのスギは、胸高直径160cm、樹高47m(!)
複層林とは、樹下に植栽して、上層と下層に二段の樹冠の層を持つように仕立てた林を指します。
ここでは当初、土佐藩の藩有林(御留山)として管理されていたのだそうです。文化8(1811)年にスギ(とヒノキ)が植栽され、その後昭和初期(1933〜34年)に下層への再植栽が行われたことが記録されています。つまり上層は214年生、下層は91年生。
こちらが前回伐採時の切株。当時ですでに120年生だったので、十分に大径です。
モミや広葉樹も多くみられました。さきほどの梶ヶ谷山、古屋山で見られた構成種が次第に増えていて、俄かには人工林と感じられない林相でした。
上層・下層がヒノキになっている個所は、見られず。おそらく斜面上部だったのでしょう。
一ノ又渓谷(四万十町大正)
四万十本流に戻り、河口から80kmほどの大正地区へ。そこから南西に流れる支流・葛籠(つづら)川に沿って10kmほど。面積52ヘクタールの保護林が広がっています。
保護林までは人工林内の急登。周囲の景色も人工林一色。
保護林の入口、標高480mにあるヒノキ。幹周囲600cm、樹高35m、推定樹齢200年との看板。地際に大きな空洞があり、古い株上に定着したことが伺われることから「根上り大将」の名がつけられています。
急斜面に立地するこの森は、ヒノキを中心に常緑の針葉樹と広葉樹が生育する混交林になっています。
ツガ。
モミ。
カシ、シイも豊富。ウラジロガシ。
ツクバネガシ、アカガシ。
アラカシ。
スダジイ、ツブラジイ。
タブノキ。
ホソバタブ。
カゴノキ、イヌガシ。
イスノキ。
ユズリハ。
落葉広葉樹もわずかに。ミズメ。
ここでもモニタリングが行われていました。
上層に針葉樹、中下層に広葉樹という階層構造が発達。
サカキ、ヒサカキ。
ヤブツバキ。
ヒメシャラ。
ハイノキ、ツゲモチ。
コバノミツバツツジ、アセビ。
大径木を見ながら1時間半ほどで下山。
人里は一足早く花の季節。
大正付近の四万十川。今日はここまで。
鷹取山(梼原町)
日が変わって、晴天になりました。大正で落ち合う大支流、梼原川のさらに支流となる北川川。大正から30kmほどの左岸。目的地は急峻な斜面です。
面積88ヘクタールの保護林。歩道が整備されています。
標高300mから、比高200mほどの斜面を急登。
最初から大径木が多い見事な林相。
優占種はモミ。
直径80cmを超えるものも。樹高も30m以上。
歩道整備のためか新しい切株がありました。ざっと数えて250年生。
こちらは古い切株。看板に「巻込株」 とあり、中心が腐朽していても樹皮が成長?続けていくとの説明。
モミの下を常緑広葉樹が占める階層構造は、昨日の一ノ又と同様。
ウラジロガシ。カシの中では優占種。
アカガシ、アラカシ。
スダジイ。
タブノキ、ホソバタブ。
カゴノキ。
ヤブニッケイ、シロダモ。
シキミ。
ユズリハ。
サカキ。
ヒサカキ。
ヤブツバキ。
アセビ。
ミヤマシキミ、コショウノキ。
ハイノキ。
アオキ、ヒイラギ。
モチノキ、イヌツゲ。
急登の後、等高線沿いに伸びる歩道はときにわかりにくく、行ったり来たり。
狭い尾根上では針葉樹の種類が増えました。ツガ。
ヒノキ。
アカマツ、カヤ。
また、地形や林冠疎開の具合に応じて落葉広葉樹が多い個所も。淡い緑があざやか。
ホオノキ。
ミズメ。
こちらは展葉前。尾状花序。
ヤマモミジ、イタヤカエデ。
実生・稚樹が結構見られました。ヤマモミジ、ミズメ、ヤマグワ、ユズリハ。
ヒメシャラ。
アオハダ。
タカノツメ。
ズイナ。
コバノミツバツツジ。
気がつけば3時間以上。下山して振り返ったところ。
移動中。里で出会ったケヤキ。
こちらは本流側。河口から170kmほど。もっとも上流に位置する沈下橋。
不入山(津野町)
最後に訪れるのは、四万十川の源流とされる不入山(いらずやま)。山名は土佐藩の御留山であったことに由来するようです。
登山口。すでに標高900m。 源流の地を訪ねる人がちらほら。
歩道はしばらく沢沿いに続いていきます。
植生の看板がありました。
よく発達した渓畔林が見られます。展葉がはじまったばかり。
サワグルミ。
トチノキ。
カツラ。
シオジ、ケンポナシ。
ヤナギ。
ヤマモミジ、ウリハダカエデ。
イタヤカエデ。
チドリノキ。
ミズキ。
アブラチャン。
タンナサワフタギ、ミヤマガマズミ。
シキミ。
イヌガヤ。
標高1150m の分岐点。
ここからは沢を離れて、二次林の林相。
林床にはスズタケが密生。疎林の中を急登していきます。
アセビ。
モミが出現。
ツガ。
そしてブナも見られました。
密度は低いものの、大径木も。
ミズメ、ヒメシャラ。
ヤマザクラ。
登山口から1時間半ほどで標高1336mの山頂に到着。
たどってきた四万十川の流域を一望。
北には石灰石の鉱山がある鳥形山。ここにも行ってみたい。
頂上の北は狭い尾根となり、にわかに林相が変わりました。
コウヤマキが優占する林分。四国では自生地はあまり多くなく高標高地に限られています。この不入山では山頂付近と西に延びる尾根筋で確認できるそうです。
分布の中心は貧栄養地。岩を巻き込むように成立。
直径70cmほどの大径木も多くみられました。
一方、比較的若くみえる個所も。
ヒノキも混交。
ツガ。
ヤマグルマ。
林床はツクシシャクナゲ。
ミヤマシキミ。
わずかですが、まだこの標高では早いと思っていたミツバツツジが開花していました。
帰り道、四万十川源流点で休憩。
まだまだ回りたい個所はあるのですが、河口から源流まで、暖温帯~冷温帯に至る多様な森を見ることができました。
