知多から渥美半島
愛知県の知多半島、渥美半島は、ともに平地は少ないものの、最高標高はそれぞれ128mと328m。奥深い山がありません。他方、両半島が囲む伊勢湾は、植物学で「周伊勢湾要素」(または東海丘陵要素)と呼ばれる、おもに湿地性の植物群でその名が登場します。
その代表といえるシデコブシの花期、いくつかの湿地と、社叢として残された常緑樹林をめぐりました。丸一日気ままに、でも、いつものように駆け足で。
師崎・羽豆神社
知多半島の先端、師崎港。港に隣接した小高い丘が最初の目的地。
ここには羽豆神社がまつられています。西側の鳥居をくぐり参道へ。
比高30m足らず、一気に登りきれば、あとは概ね平坦な尾根になります。
ここは「羽豆神社社叢」として、国の天然記念物に指定されています。その主役は、ウバメガシ。1959年の伊勢湾台風で大きな被害を受けたものの、神域として沿岸暖地性の自然植生が保たれています。
樹高は10mにも達しませんが、直径40cmほどの個体も見られます。海からの風を受けた複雑な枝ぶりがみごと。
主要な随伴種、トベラ。
外海がすぐそこです。
ウバメガシと並んだカクレミノ。
イヌマキ。
ヤブニッケイ、マサキ。
オオバイボタ、ネズミモチ。
モチノキ、キヅタ。
歩道。樹冠がトンネルになっています。
ウバメガシの堅果。稚樹も多くみられました。
展望台に登ってみました。東は渥美半島、西は遠く志摩半島。
ウバメガシの樹冠がよく眺められます。
ヤブツバキ。
突端に鎮座する神社に参拝。
イブキの存在も特徴的。
ケヤキ。
エノキ。
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ここから、フェリーで伊勢湾を横断。結構な乗船者がいました。
途中、篠島で乗り換え。この島のにある新明神社の社殿は、伊勢神宮の御用材で20年ごとに立て替えられるのだそう。古来からの海の道を感じます。
伊良湖・宮山
約1時間の船旅で、伊良湖に入港。次の目的地は、街の裏にみえる宮山です。標高は140m。
平安時代に起源をもつ 伊良湖神社。かつては山の上に鎮座していたのだそう。
境内のナギ。
宮山を東側から仰ぎみます。この常緑広葉樹林が「宮山原始林」として、やはり国の天然記念物に指定されています。こちらも伊勢湾台風の攪乱で「往時の面影はない」とのことですが、踏み跡があると知り、登ってみることに。
比高は100mほどですが、急登。大きい木は少ないものの、下層を含め、本数密度が髙いです。
タブノキ。優占種のひとつ。
ヤブニッケイ。各階層にいました。
カゴノキ。
ヒメユズリハ。沿海に多いのだそう。
イスノキ。
スダジイ、マテバシイ、アラカシ。最大直径は50cmほど。海風のためか、樹高は20m程度。
ヤブツバキ。
最高点付近。眺望はありません。深山の雰囲気。
ミミズバイ、タイミンタチバナ。
サカキ、ヒサカキ。
トベラ。
カクレミノ、ヤツデ。
クロガネモチ。
イヌマキ。
ビワ。
マンリョウ、ミヤマシキミ。
アセビ、ネズミモチ。
つる性植物も豊富でした。フウトウカズラ、イタビカズラ。
多様な森をたのしみ、1時間ほどで戻りました。
シデコブシのある湿地
この地域の湧水湿地は、上部にチャートなどの砂礫が堆積し、その下部に粘土質の不透水層がある箇所に分布しているのだそうです。そうした湿地の代表的な箇所をめぐってみました。
黒河湿地
シデコブシ
まずは、黒河湿地。面積は全体で0.5ヘクタールほど。木道が整備されています。
シデコブシ、ちょうど花が咲いていました。
ヘビノボラズ。
イヌツゲ。アカマツとイヌツゲのパッチ。
ヤマモモ。
サクラバハンノキ。まだこの時期は展葉前。
ヤチヤナギ。北海道の湿原に出現する北方系の樹種。ここに分布しているは不思議な感じです。
ワレモコウ、モウセンゴケ、シラタマホシクサ。
木道はほんの50m程度。歩く距離はごくわずかなのですが、長居しました。
藤七原湿地
半島の北側、山の東北斜面に位置する藤七原(とうしちばら)湿地。
シデコブシの自生地として面積は最大級とのこと。傾斜に沿って自生地が沢沿いに伸びています。
イヌマキ、ハイネズ。
ハンノキ、オオバヤシャブシ。
椛(なぐさ)の自生地
ここは国の天然記念物に指定されている箇所。花期としては一番見頃に近い印象でした。
越戸大山
一日の 最後に訪れたのは、渥美半島の最高峰 、標高328mの越戸大山の山麓。白山比咩(しろやまひめ)神社。その社叢「大山原生林」に生育する、巨木をめぐりました。
鳥居の脇のタブノキ。胸高直径は130cmに達しています。
クスノキ。こちらも直径100cm以上。
カゴノキ。
ヤマモモ。
ヤマザクラ。
渥美半島は、この時期、菜の花。写真がなかったので、最後に1枚。
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この日は、豊橋に出て、翌日、静岡市で用務のため移動。翌朝に散策するため、手前の藤枝市に宿泊しました。
藤枝・若一王子神社
早起き。駅前から始発のバスで市の中心部へ。目的地は、市街地に接したこの若一王子(にゃくいちおうじ)神社。看板にはこの神社と「藤枝」地名の由来。
この社叢が県の天然記念物に指定されています。なかなか詳しい説明。とくに4樹種に注目。
まず目を引くのは、社殿に接したクスノキのご神木。直径100cmを超えています。
ほかにもクスノキは大径木が多数。
タブノキ。
オガタマノキ。神社にはよくあります。これも植栽かもしれませんが、樹齢はかなり高そうです。
ヤマモガシ。看板掲載の注目種のひとつめ。ここが分布の北限になるそうです。
イスノキ。
人為の影響はあるのでしょうが、直径70cmを超える立木が多く、なかなか見られない発達した森林と感じました。
アラカシ、アカガシ。
イチイガシ。看板ふたつめの樹種。こちらも分布の北限に近く、このあたりでは希少だそうです。
スダジイ。
マテバシイ。
看板の3、4種目はいずれもハイノキ科。こちらはミミズバイ。伊豆半島が北限となるそうです。
同じくハイノキ科のカンザブロウノキ。ここ藤枝が北限とのこと。
ヒサカキ、アリドオシ。
コアブラツツジ。
比高30m足らずを登りきると、そこは蓮華寺池公園。朝の散策をしている方がちらほら。ケヤキ。
ここから歩道を下り、社叢を振り返りました。わずか40分の滞在でしたが、十分に満足しました。