月形 羽幌 スギ人工林
日本を代表する造林樹種であるスギの自然分布は青森県までと言われています。北海道には道南の渡島・檜山地方に古くから植栽され、現在、約3万haのスギ人工林があります。しかし、以北では極端に少なく、北海道のスギ総蓄積量およそ1000万m3のうち、1%未満(6万m3)に過ぎません。
さて、それでは、それより北ではスギは育たないのか、というと、そういう訳でもないようです。北のスギ人工林を巡ってみました。
8月28日 月形スギ希少個体群保護林(樺戸郡月形町・空知森林管理署)
ここは歴史的な人工林です。札幌から北東に約50km、石狩川の右岸に位置する月形町。町名はある人物に由来しています。かつて、1881(明治14)年から1919(大正8)年に町の中心にあった、おもに国事犯を収容した「樺戸集治監」の初代典獄(刑務所長)、元福岡藩士の月形潔です。彼は、1885(明治18)年に北海道を去りますが、この保護林は、その後、1890(明治23)年、集治監開庁10周年の記念植樹として囚人の手により植栽されたものなのです。
保護林は、町の中心からほど近い、山麓に位置しており、遊歩道もつけられていました。当時は、開拓直後、おそらく原生林が切り開かれた直後だったと思われます。どのような光景だったのでしょうか。
林齢は130年!ということになります。保育もきちんと行われたのでしょうか。立派なスギ林です。看板によると、2011年(121年生)時点で蓄積は660m3(本数380本)/haとありました。
同年、平均胸高直径は42cm。平均樹高は25mとのこと。現在は、樹高30mを超える個体も多そうでした。
2006年春に野鼠害があったとのことで、一部の個体には食害防止ネットが巻かれていました。大切に保護されていることが伺えます。
下層には広葉樹が豊富です。記録では、スギとともにクヌギが植栽されたようですが、、、見つけることができませんでした。
こちらは隣接するアカマツ人工林。スギの10年後、集治監開庁20周年で植栽されたとのことです。いずれも本州の郷土種であったことは偶然ではないでしょう。
斜面の下部には若いスギ林がありました。保護林から採取したクローン苗木を10年前に植栽したものだそうです。
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8月30日【羽幌・築別山林】(羽幌町築別・新宮商行所有)
月形から北に約100km、日本海に面する羽幌町にもスギ人工林があります。その間には、知られるスギ林はないので、相当な隔離分布です。ちなみに、羽幌は、私が住む内陸の名寄市のほぼ真西(北緯44度)に当たります。私たち、北大の研究林では、まとまった面積でスギを植えた記録は見つかりません。。。
この森林も里に近い立地でした。事前に入林許可をいただき、林道入口から徒歩で5分ほど。道に沿って、面積0.7haのスギ林が現れました。
こちらの樹齢は105年(林齢は102年)。月形と同様に、歴史的な林分です。看板の産地はおそらく誤記で、町史によると「山形県温海村」です。3年生苗4000本余りを植栽したことが記録されています。当初は管理不良だったものの、現在の所有者の管理のもと、よく保育がなされたとのこと。産地が日本海に沿う温海産であることも幸いしたかもしれません。
平均胸高直径は40cmほどでしょうか。樹高も30mに近いものがあり、月形の林と比肩するように見えました。
樹幹の下部にツル植物(ツルアジサイ、ツタウルシ)が目立ちます。間伐が適宜行われて明るくなったためでしょうか。
間伐の際の切株が見えます。
切株上には稚樹が生えていました。更新も可能であると思われます。
林道の反対側は、天然生林でした。
材質について、だいぶ以前ですが、道・林産試験場の調査(川口ら1976)によると、決して良好とはいえないものの強度は満たしていたそうです。当時の樹幹解析で、成長も渡島地方の一般的なスギ林と同程度と報告されています。
スギは、本州中部で標高2000mまで自然分布していることを考えると、北海道の気象条件で育つことは驚くことではないのかもしれません。ただ、なぜ北海道北部では、スギ造林が普及しなかったのか、、、2か所を見ると不思議な気がしてきます。
その後、利尻島にも約50年生のスギ林1haがあることを知りました。スギは日本最北まであるわけですね。。。いつか、訪れてみたいと思います。
帰り道。
周囲は水田。日本海側は対馬暖流の影響で、内陸より北まで稲作が行われています。羽幌の稲作は明治後期にはじまり、スギが植栽された頃にはある程度本格化していたようです。温海からの移住者は、田んぼ・杉林の組み合わせをつくりたかったのでしょうか。感慨を覚えます。
今回は、開拓期の歴史を感じる散策でした。