小樽・仁木町
小樽に所要があり、この機会に、以前から気になっていた周辺の森を何カ所か訪れてみました。
銭函天狗山
小樽市銭函、国道から南へ急坂をのぼり、銭函天狗山(537m)の登山口へ。早朝にもかかわらず、天気がよいのですでにくるまがいっぱいでした。少し歩いて、山小屋。
その先、登山道は小渓流に沿って登りになります。そこが今回の最初の目的地。
トチノキが生育しています。分布の北限とされている箇所です。トチノキは、東日本の、いわゆる「ブナ帯文化」と呼ばれる縄文以来の狩猟採取文化の中で、人間・動物の食糧となる大型の種子を生産する存在として、ブナ、クリ、ミズナラ、オニグルミなどと並ぶ代表樹種と言えます。トチノキが、ブナの北限である黒松内低地帯からさらに50kmだけ北まで分布しているのは、地誌的な分布拡大/制限の結果として興味深いです。
ここでは小渓流に沿ってごく普通に生育しており、直径50cmを超える大径木も見られました。稚樹はあまり目立ちませんでしたが、小径木は豊富。「天狗山」の名称は、団扇のような葉のトチノキがあるから?と思いました。札幌近辺には天狗山の地名が多いのですが、どうなのでしょうか?
他の構成種。カツラ 、ヤチダモ。
そして沢幅いいっぱいにオニグルミが樹冠を広げていました。
下層から中層を占めるサワシバ、キタコブシ、ハウチワカエデ。
ウリノキ、ハクウンボク、アオダモ。
渓畔から少し登ったところ。ハリギリ、キハダ。これらもかなりの大径木がありました。
イタヤカエデ、シラカンバ。
尾根上まで登ると、ミズナラ。造林木と思われるカラマツとの混交林になっています。
オオバボダイジュ。山頂まで行けば展望がたのしめるのですが、今日はそこは割愛。下山して先に向かいます。
桂岡・銭函川
再度くるまで移動。小樽市桂岡の住宅地の奥にある春香山登山口へ。こちらも駐車スペースはいっぱいでしたが、斜面中腹につけられた歩道は静かで、気持ちよく歩けました。
ここでも一部にカラマツ植栽木があったものの、歩道沿いはおおむね天然林。ウダイカンバ、ケヤマハンノキ。
ミズナラ、イタヤカエデ。
オオバボダイジュ、シナノキ。
ホオノキ、キタコブシ。
ヤチダモ、カツラ。
シウリザクラ、オニグルミ。
30分ほど歩いて支流沿いの林道に到達。銭函川流域には分布の記載があったものの、目当てのトチノキは見つけられませんでした。もっと上流まで行かなければならないのかもしれません。
ツリバナ、クサギ。少しだけ秋が感じられました。クサギも分布の北限に近く、これが見られただけでも満足。
仁木町銀山
小樽からさらに1時間ほど、仁木町の然別駅付近で国道を離れ、林道入口から散策を開始しました。さっそくここでもトチノキ。
比較的里に近い箇所ですが、意外にも人工林が少なく、ずっと林道沿いに天然林が続いていました。かつて抜き伐りが行われた二次林に見えます。シラカンバ、ウダイカンバ。
ヤチダモ、オヒョウ。
ナナカマド、アズキナシ(後ろにハイイヌガヤ)。
ホオノキ、キハダ。
イヌエンジュ。豆果が見られました。
ハウチワカエデ、ミズキ。
ミズナラ。ときどき優占する箇所があったものの、林道沿いでは(斜面中腹-下部に沿っていたためか)存在感は低い印象でした。
林床には、ときおりチシマザサが密生していたものの、全体には明るく、更新木が多く見られました。
針葉樹は少なく、わずかにトドマツを見かける程度。
1時間半ほど歩いて「林木遺伝資源保存林」の看板に到着しました。トチノキが対象の保存林。
保存林内の沢の入口。本州日本海側で過ごした時間が長い者からすると、このような立地にトチノキがいるのはとても見慣れた景色です。
直径70cmほどの大径木も。見事な樹形をしていました。
ちょうど種子が多く落下していました。かなりの豊作です。
稚樹。樹冠のそばにはあちこちに散生。
沢沿いの優占種はトチノキのほか、オニグルミ。道北だとオニグルミが優占する林分はあまり多くない印象なのですが、ここでは(銭函と同様)とても存在感がありました。
カスミザクラとウワミズザクラ。ウワミズザクラも、トチノキと同じくこのあたりが北限とされています。
オオバクロモジ、タニウツギ、ツノハシバミ。これら低木の自然分布もトチノキ、ウワミズザクラと同様なのかもしれません(?) 。トチノキも含め、ブナのいない森でこれらに出会うのは、私にとってはとても新鮮な気分です。
クリ。こちらはトチノキより少し北、石狩低地帯の東縁まで分布していますが、いずれにせよ道北にはないので目を惹きました。
ヤマブドウ、ミヤマニガウリ。往路も飽きない散策でした。
蘭島海岸
今回、小樽に来たのは、アイヌの外洋船「イタオマチプ」の進水式に出席するのが目的でした。まずは、夕方から前夜祭に参加。
舟は雨龍研究林のアカエゾマツからつくられました。かつてはこのような舟で、沿岸をたどりながらアムール川まで交易に出かけていたのだそうです。 一般社団法人アイヌ文化学術研究会の取り組みで、製作方法の技術伝承の目的で、復元されました。
これは伐採前のアカエゾマツの様子(雨龍研究林蔭の沢)。造林地の中に残された、直径1.5mに近い大径木でした。私は伐倒・搬出の作業には立ち会えなかったので、立木のとき以来の再会となり、感慨深いです。
木目が美しいです。今回はアカエゾマツ製ですが、カツラなど 広葉樹が使われることが多かったそうです。 大径木を刳り抜いた丸木舟に、側板を足して舷を高くしています。いっさい釘が使われない「板綴り舟」。研究林産のミズナラ(内側を補強する曲木)、シウリザクラ(櫂)なども使われました。
日が暮れました。
今回は、研究林でのアカエゾマツの伐倒・搬出から、製作、儀式まで一連のプロセスを記録するプロジェクトでもありました。製作者の成田徳平さんが、丁寧に解説を交えながら儀式が進行しました。
夜はここまで。
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翌朝。昨日にも増して多くの参加者がありました。北大森林研究会の学生さんが準備に活躍。そのほかの知り合いも多数。
海と船の間、神への供物「イナウ」。ヤナギの枝からつくられています。
儀式の場の中心となる、火の神をまつるイロリ。伐倒のときに使われた鉞(まさかり)もおかれていました。
一連の儀式が続いていきます。
そして海に漕ぎ出ようとするところ。
残念ながら、波が強く、結果的には海に出ることができませんでした。が、一連の儀式は無事に終わりました。このあと舟は(行き先未定であるものの)博物館等で保存されることになっています。
個人的にも、研究林としても、とても貴重な体験ができました。 関係の皆さま、有難うございました。