富山

2020年10月28日

富山県森林研究所のお招きで、富山を訪れました。私にとってはとても縁のある土地で、かつて調査に通っていた時期もありました。今回は、講演会・勉強会とあわせて現地検討会も設けていただき、その調査地を含め多くの森林を訪れることができました。

10月27日 研究員の中島春樹さんに出迎えていただき森林研究所へ。かつてお世話になった方が多く在籍されており、ご挨拶。草島所長、図子副所長とお話しした後、皆さんと勉強会。現地見学の予習をしました。

昼前から、中島さんのほか、長谷川幹夫さん、杉田久志さん、大宮徹さんが現地に同行してくださいました。かつて調査に通っていた際、 いつもたいへんお世話になっていた長谷川さんは、現在は、同県利賀村の「TOGA森の大学校」でご活躍されています。また、杉田さんは、森林総研ご在籍の頃、いつも学会等で教えていただいていましたが、ちょうどこの10月から森林研にお出でになったとのこと。

今日のテーマはコナラです。富山県は天然林率が高いことで知られていますが(北海道より高い)、とくに標高500m以下の里山域にはコナラが多く分布しています。10年程前に大きなナラ枯れ被害が出た際に、ミズナラの蓄積は半減したのに対して、コナラは相対的に影響が小さく、その期間中の蓄積の変化は、枯死より成長が上回ったと見積もられるそうです。コナラ林は、かつては薪炭林として20年程度の周期で伐採されていましたが、燃料革命後は利用されず、林分の多くは50年生以上になっています。この里山の資源を持続的に活用するための一連の研究を見せていただきました。

【立山町吉峰】

まずは、森林研の裏山、約70年生のコナラ林の試験地へ。林冠は閉鎖していますが、コナラ独特の明るさを感じます。シードトラップが設置されています。

下層植生の刈り払いによる実生バンクの形成を目指した試験が行われていました。林床にササ類が少ないこの個所では、1回の刈り払いで、稚樹の定着にある程度効果があるようです。

隣接した5年程前の皆伐跡地。コナラの実生が大きく成長していました。切株からの萌芽もいくらか見られましたが、本数は少なく、やはり実生更新が必要だとのこと。

【小矢部市小森谷】

高速道路を使って県の西部へ。里山域に入ると、造林地が目立つものの、コナラの林も多くありました。

こちらも林齢70年のコナラ林。2017年度に「更新伐」が行われた現場です。更新伐とは、天然林の改良と更新の促進を促すための伐採で、造林補助事業のひとつになっています。伐採率は70%以上の規定がありますが、皆伐ではありません。

ここでは、伐採年がコナラ堅果の豊作年と一致したこともあり、稚樹が密生している状況を見ることができました。先ほどの箇所と同様、下層植生処理の頻度・方法を変えた試験が行われていました。

保残木の密度は、1.7本/100m2とのこと。コナラの更新を考え「明る過ぎず、暗すぎない」条件として、1-2本/haとしているそうです。

そうした指針をすでにまとめて、事業の普及が図られています。広葉樹・非皆伐の方法を普及するのはなかなか困難であったことと想像しますが、すばらしい取り組みと思います。

近くに、ちょうど施工中の現場がありました。更新伐は、現在、県内で100ha/年ほど実施されているそうです。この材は、森林組合のおが粉工場へ運ばれていきました。

【南砺市砂子谷】

次は、さらに西へ移動しました。ここも清々しいコナラ林。

これまでとは林床の様子が異なりました。この地域は、県下でも、クマイザサがとくに多いのだそうです。

刈り払いを継続している箇所には、2017年の堅果豊作に由来する稚樹が多くみられました。

ただ、このササの多い立地だと、最初に見た森林研の箇所とは異なり、1回の刈り払いでは不十分のようです。ロープの先は、2015年に刈り払いを行ったものの、その後は放置した箇所。ササが完全に回復しています。対応策として、通常、伐採直前に行われる下層植生の刈り払い(中刈り)を数年前から行うことを推奨しているそうです。また、将来的な課題として、北海道で行われている、重機を用いたササの除去(かき起こし)の可能性、利点・欠点について議論しました。

コナラの苗を植栽した箇所も見せていただきました。指針の冊子の中では、 ササの多寡と堅果の豊作タイミングで、植栽が必要な場合の条件づけが整理されていました。

さまざまな箇所を見せていただき、コナラ二次林を対象とした取り組みの全体像がよくわかりました。多くの選択肢を示し、きめ細かい対応によってナラ類特有の難しさ(豊凶、短い堅果散布距離)を克服し、更新技術の普及に取り組む姿勢に大きな感銘を受けました。今後、確実な更新を前提として、コナラ材の高付加価値利用の方向性もできたらすばらしいと感じました。

車内でも議論を続けながら、富山市内に送っていただきました。すっかりコナラを見直した一日でした。

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10月28日 この日は、10時から富山県民会館の会議室で、森林・林業関係者への講演会「生態系の保全と両立する林業---その可能性」。皆伐に代わる「保持林業」や、北海道の天然更新補助作業、最近の広葉樹利用などの話題提供をしました。コナラ林や他の森林施業に何らかの参考になれば、と思います。

富山に勤めている大学時代の同級生2名に30年ぶりに再会。後輩も顔を出してくれました。

昼食後、中島さん、長谷川さん、杉田さんに、今日も現地をご案内いただきます。

【富山市(旧大山町)有峰】

富山市内から約1時間半で、かつての調査地に到着。約15年ぶりになります。経由する有峰林道は、当時よりだいぶ整備が進み、走りやすくなった(絶壁が怖くなくなった)印象でした。

ここは、約80年生のカラマツ人工林です。私がポスドクだった1998年、ここに面積1.5haの調査プロットをつくり、2005年まで調査を行っていました。現在は、中島さんが種子の豊凶など、周辺で一部の調査を継続してくださっているとのこと。

当時、注目したのは、林内にあった、カラマツよりも樹齢の高い(つまりカラマツ植栽時に残存していた)広葉樹です。それらの存在が、林内の樹種構成や種多様性に及ぼす影響を解析し、2005年に論文として発表しました(Yoshida, Hasegawaら. 2005 J Forest Res)。この論文は、幸い、最近注目していただき、2018年刊行の「保持林業」(築地書館)で、国内の貴重な事例として内容を紹介したところでした。

残存木の中でも、シンボル的なミズメとシナノキ。

そして、ミズナラ。ナラ枯れ個体もありましたが、一部にとどまっていました。高標高(1100m)であることが幸いしたようです。

一方、調査をしていた頃、この林では森林整備の事業が入り、長谷川さんの発案でブナの樹下植栽が行われました。有峰にはブナ林が多くありますが、このカラマツ林内には稚樹を含め、ブナがまったくなかったのです。

それが成長し、期待も背丈も上回る大きさになっていました。長谷川さんと感慨に浸りました。。。当初のデータもあるし、再調査したい!と議論が盛り上がり、本当に来た甲斐がありました。

その後、少し移動し、旧道に沿った歩道を長谷川さんに案内していただきました。

目当ては、この「あがりこ」です。「あがりこ」は、豪雪地帯で、薪炭利用のための雪上伐採を繰り返すことによってできた独特の樹形を持つ木を指します。旧集落(いまはダム湖底)から近い、谷の出口の緩斜地1.7haに集中して分布しているそうです。

樹種としてはブナ、ナラがよく知られていますが、ここでは、77本中66本がトチノキのあがりこだそうです。トチノキは薪には向かないので、かつて、小径材の工芸利用があったのでは、というのが長谷川さんの推測です。

周囲は発達した天然林でした。ヤチダモ、サワグルミ。

ウダイカンバ、ハルニレ。

ミズナラ。

紅葉は終わりかけで、薬師岳はすっかり雪化粧していました。森林研究所に戻り、市内まで送っていただきました。中島さん、長谷川さん、杉田さんには、2日間にわたってお付き合いいただき、本当に有難うございました。もともと富山好きでしたが、またぜひ来たい、との思いになりました。

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以下、短く訪れた、立山の入口、美女平の森林です。

美女平は、立山の溶岩台地の末端に位置し、平坦で雪圧の少ない箇所にスギ(タテヤマスギ)の巨木が生育しています。その推定樹齢は1000-2000年。奈良時代の切株もあるそうです。

タテヤマスギ。

胸高直径2m級の巨木。

切株上のスギ稚樹、伏状更新。

スギとブナが混交する箇所。

ブナの純林に近い箇所もありました。

満喫して下山しました。