美深・松山湿原

2020年07月19日

北海道を代表する樹木のひとつ、アカエゾマツ。研究林内にも多く生育していますが、蛇紋岩地、火山礫地、湿地、砂丘など、バリエーションに富んだ立地で純林をつくることが知られています。初夏の晴天の日に、湿地性の矮性林分があることで知られる美深町の松山湿原を訪れました。

入口から30分ほどの登り道。

標高800m。私が住む名寄市の最高峰ピヤシリ山の北側、溶岩台地の末端に面積約15haの広さの湿原が広がっています。一周できる歩道が整備されています。とても静かです。

湿原の周囲は、樹高10m程度のアカエゾマツ林です。

そこから湿原の内部に行くにつれて、アカエゾマツの樹高が低くなっていきます。アカエゾマツ以外の高木性の樹種はありません。

樹高2-4m程の箇所。過湿な条件下で、樹高成長が制限されていることが伺えます。 サイズが似かよった 木が、1~10本程度まとまって島状に散在しています。湿地内の、少しだけ隆起した場所に生育しているようです。

枯れ枝、折れ枝が目立ちます。幹がねじれたような個体もありました。冬季、積雪(2-2.5m)の上に出る木の上部は、風の影響を強く受け、乾燥や物理的ダメージを受けると思われます。主風方向の逆(風下)側だけ枝が生きながらえている個体が多くみられました。

こうした木でも、生き残っている下側の側枝だけはそれなりに成長しています。幹の直径成長はきわめて遅く、樹齢は、正確に計測した記録はみつかりませんでしたが、500年近くに達するという推定があるようです(ただし個体間の樹齢のばらつきもとても大きい) 。北大天塩研究林では、やはり湿地性のアカエゾマツ林の樹高3.2mの個体で、樹齢360年という記録がありますので、ここ松山湿原でも高齢個体があることは間違いありません 。湿原周囲と中心付近で、サイズは大きく異なるものの、樹齢にはそれほど差はないようです。

アカエゾマツの稚樹。あまり多く見つけることができませんでした。立地の傾向もつかめませんでした。

周縁部には、チシマザサに混じって、ところどころハイマツが分布していました。

トキソウ、モウセンゴケ。

登山口「天竜沼」の周辺もアカエゾマツ林でした。樹高20m以上の発達した森林です。こちらに近いタイプの森は雨龍研究林にもありますが、ここのほうが、アカエゾマツ以外の構成種が若干多いように見えました。

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余録をふたつ。

【雨竜沼湿原】 7月12日 美深の1週間前、雨竜町にある雨竜沼湿原へ。

登山口から1時間ほど。標高850mの台地上に広がっています。面積約100ha と広大です。

この湿原内には高木になる樹種はありません。

周囲はチシマザサの密な群落に覆われています。湿原との境界線がとても明瞭です。点在するのはダケカンバ。道北の高標高域は、このようなダケカンバ疎林が一般的です。

* ときどき勘違いされるのですが、北大雨龍研究林の所在地は雨竜町ではなく(幌加内町)、同じ「雨竜郡」ではあるものの、研究林の事務所からだと車で2時間以上かかります(雨竜郡6町と中心にある深川市の面積を足すと、ほぼ香川県に匹敵します)。 


【仁宇布原生保存林】 5月31日 松山湿原の最寄りの集落である美深町仁宇布(にうぷ)からよく整備された林道を20分ほどの箇所には、道有林の保存林があります。

看板によると50年程前に保育伐が行われたとのことですが、その後は手つかずで、よく発達した針広混交林を見ることができます。

訪れたのは、新緑の季節でした。シナノキ、ミズナラ、イタヤカエデ、ハルニレ、ウダイカンバ、シラカンバ。

トドマツ、エゾマツ、ミズナラ。 歩道に沿って、多くの大径木があります。