秋田 天然スギ

2019年04月29日

連休の2日間を使って、以前から見に行きたかった秋田スギを見てきました。 

4月28日 名寄から、延々と公共交通機関で移動し、27日午後に大館駅に到着。ここで、レンタカーを借りました。正味まる一日の旅となります。
大館では「曲げわっぱ」の工房や、有名な巨大木造建築「大館樹海ドーム」も見たかったのですが、時間が限られているので、すぐに市街を抜けて、国道7号線を一路北に向かいました(つい、急いでしまうのは私の性分・・・)。


【矢立峠風景林】(大館市長走字陣場) 

14:30、秋田・青森県境にある道の駅「やたて峠」に到着。連休で、駐車場はくるまがいっぱいですが、天気はあいにくの雨模様。レインウェアを身につけます。

国道脇から、整備された遊歩道。やや急な斜面を登っていくと、さっそくスギの大木が現れました。直径は軒並み1m以上、樹高は40mはあるように見受けられます。 

あずまやのある天然杉広場には、5分もかからずに到着。雨のせいか、誰もいません 。説明を読むと、1991年9月の19号台風で、200本以上の風倒が生じたそうです。国有林の資料によれば、戦前の蓄積は 700~1,000m3/ヘクタール。現在は400m3ほどとのこと。 ちなみに、風倒の際に年輪を数えると280年生ほどだったそうです(このあと訪れたいずれの箇所も、樹齢は200-300年程度との情報が多かったです)。

上述の台風の影響などもあり、以前と比較すると落葉広葉樹の比率が高まっているとのこと。新緑にはまだ早いのが、少し残念です。 

風景林の面積は10ヘクタールほどあるようですが、スギの大径木が多く見られるのはここまで。ただ、その先、古羽州街道につながるというので、もう少し遊歩道を先に進んでみました。周囲は人工林。歩道の看板にあるように、この峠を通ったのは、伊能忠敬、吉田松陰、明治天皇など、幕末・明治の著名人が名を連ねます。中でも英国のイザベラ・バードは「日本奥地紀行」(1880:北海道の記述もあるそうで、今度、読んでみようかと)で、この峠を絶賛しているとのこと。当時から、このような林は稀であったことが伺えます。

帰りは雨が強くなってしまいました。


-----
道の駅に戻ると、時刻は15:30。あわただしいですが、今日はもう1箇所訪れることにしています。国道7号線を戻り、秋田道に入って北秋田市(旧鷹巣町)を経由して、さらに南下。上小阿仁町を目指します。

 

【上大内沢自然観察教育林】(上小阿仁村大林字上大内沢)

16:30過ぎに入り口に到着。駐車場には、さすがに誰もいません。「クマに注意」の看板が気になりますが、さっそく林内へ。幸い、雨は小止みです。整備されて歩道を、しばらく沢沿いを進み、途中から斜面を階段でのぼっていきます。 

大きな切り株が目に入りました。過去に伐採の履歴があったようです。 

そして、その先、台地上に出ると、思わず声をあげる、まさに、圧巻のスギ林でした。写真で、木の大きさ感が伝わるでしょうか。「思わず声を上げる」と表現しましたが、同時に「言葉を失う」大きさです。 

設置された看板を読んで、切り株について納得(予習せずに行きましたので・・・)。ここは「天然林収穫試験地」として、過去に2回の間伐が行われているとのことでした。看板の説明文中の「寺崎(渡)博士」は「寺崎式間伐」で知られる間伐研究の第一人者です。つまり、ここは「人に育てられた」天然生美林であるわけです。

樹高は軒並み50mを超えています・・・主要な木には、計測値を示すプレートが設置してありました。

そして、これが一番大きい木。樹高56m、途中から二股になっているとはいえ、直径222cm、材積65.1m3! この林全体では、なんと1891m3/ヘクタール! 日本屈指の蓄積量でしょう。 

この林のランドマークである「コブ杉」、 国立科学博物館に展示された円盤(間伐の際伐採?)の切株あとや、精英樹の説明もありました。 

十分に堪能し、この日は能代に出て1泊しました。夕暮に間に合ったので、有名な海岸林を散策。

-----
4月29日 朝5:30に出発。今日は晴天です! 能代から西に戻り、二ツ井町に向かいます。町内に2箇所の訪問先があり、どちらを先にしようか迷ったのですが、途中、川霧が美しかったので、米代川のすぐ隣にある林に先に行くことにしました。


【七座山】(能代市二ツ井町小繋字七座)
まずは、七座神社に参拝。 

霧がかかっています。 七座山は信仰の場ということで、神社は、山を背にしているのかと思っていたのですが、米代川をはさんで、七座山と相対していました。右の写真に見える鳥居は、米代川・七座山に向かって立っているもの。

鳥居を出ると、対岸に藩制時代に「御直山(おじきやま)」として保護された天然スギ林が見えて、胸が高鳴ります。ここは、広葉樹も多そうです。 

神社の境内林もすばらしく、しばし滞在。 

七座山には登山道が整備されています。6:20、急坂を「展望台」に向けて登山開始です。 

天気もよく、カメラのシャッターが止まりません。。。ここは、昨日の上大内沢とは異なり、ほぼ手付かずの原生林といえそうです (ただしwikipediaには出典不明ながら「1774年と1785年に杉が1200本あまり伐採された記録が残っている」との記述あり)。 

対岸からも見えましたが、広葉樹の大径木がたくさん混生しています。ミズナラ、トチノキ、イタヤカエデ、ブナなど。多くは展葉前なのが少し残念(あと1週間後だったら!)。

1時間弱かかって、最後は絶壁の階段を登り、展望台に到達。川の湾曲部・対岸が、七座神社の森。なお、後日、この文を書いている途中で知ったのですが、川の右側(ちょうど写っていないところ)は、かつて米代川流域の木が集まる「東洋一」の貯木場だったそうです。

痩せた尾根上は大きい木がありませんが、手の届く高さで花・新緑をたのしむことができました。東西斜面でだいぶ植生が異なるとのことで、違う季節に再訪したいところです。 

7:30、もっとも標高が高い「権現座」山頂に到着。静かです。 

下りは、山腹に水平方向につけられた、別のルートで。ところどころ、凝灰岩が露出していて、巨岩のもとには、権現様や山神様が祀られていました。スギも巨岩を抱え込んで生育しています。 

ふたたび巨木林の中を下っていきます。 

8:30、下山。対岸からもう一度、山を眺め直しました。すばらしい2時間でした!


-----
ここで1日過ごしてもよいくらいに思えましたが、先に向かいます。次は、二ツ井町中心部から、米代川の支流である内川、さらに支流の田代川に沿って南下し、山に分け入っていきます。


【仁鮒水沢スギ植物群落保護林】(能代市二ツ井町田代水沢) 

9:20、入り口に到着。ここは、秋田スギの林としては、たぶん、もっとも有名な場所です。昨日の上大内沢とは山を挟んで5kmほどしか離れていません。ここも、立派な看板があり、歩道が整備されています。

上大内沢と同様、最初は沢沿いに歩いていきます。左下に小さく見える2人連れ(見えますか?)と比較すると、木の大きさがわかるでしょうか。なお、今回5箇所巡って、林内で出会ったのはこの2人だけでした。「連休で混み合っているかも」と心配していたのですが(笑)。  

ここからがスギ林の核心部! 林相は、上大内沢と似て、スギの純林に近いかたちです。東北森林管理局の記述では「旧班時代の保育については不明であるが、明治以後、殆ど保育及び伐採を行ったことがなく」とのこと。 

ただ、切り株らしきものはいくつか見かけたので、明治以前に、スギを育てる何らかの人為の働きかけはあったのかもしれません 。それにしても、昨日から、見慣れてきてしまっていますが・・・やはりすごい林です。右の写真の手前の木は直径116cm。細く見える木も、いずれも80cmは優に超えているわけです。

そして、これが、日本一高い秋田スギとされる「きみまち杉」。樹高は58m、昨日の上大内沢を2m上回っています。林分全体の蓄積の記述が見つかりませんでしたが、上大内沢と負けず劣らずと感じました。 

帰途、途中の集落。かつては、上述の七座山麓の貯木場まで、延々と森林軌道が通っていたそうです。


-----
さて。 もう、お腹いっぱいな感はあるのですが、もう一箇所立ち寄りたく、国道7号線に戻り、秋田道を経由して、秋田市に向かいました。

【仁別自然休養林】(秋田市仁別) 

秋田北インターから30分ほど山道を分け入って、ちょうど12:00に到着。ここには森のほかに「森林博物館」があるとのことで、ぜひ来たかったわけです。 川を挟んだ対岸に、天然林が見えます。ここも、藩制時代の「御直山」として保護されてきたとのこと。 

川を渡ると、この林のランドマーク「めおと杉」。この旅で、「コブ杉」「きみまち杉」に続き、3本目の「森の巨人たち100選」。 

上部の歩道は災害で手入れができていないとのことで、川に沿った歩道を歩きます。サワグルミやトチノキの大径木が混成していました。 

専門的な解説がとても充実しています。

これは、樹皮タイプについて。森林博物館の外に、より詳しい解説がありました。 

博物館は、近年リニューアルされていて、展示内容もとても充実していました。お勧めです! 

かつての集材や、森林軌道の展示も見応えがありました。 

秋田スギをくり抜いた丸木舟。かつて男鹿で使われていたそうです。案内のおじさんにいろいろ質問していたら、建物の裏にひっそりと保存されている、集材車の実物を案内してくださいました。はじめて見ました。 

旅はこれでおしまい。あとは、秋田駅に戻るだけです。博物館前からは、まだ雪を冠った太平山の山頂が見えました。おじさんが、四季の魅力をたくさん語ってくださったので、また別の季節に、登山も兼ねて再訪したいと思いました。