檜山研究林 その周辺

2019年08月29日

道南・上ノ国町にある檜山研究林に行ってきました。農学部森林科学科の「施業実習」参加のための訪問です。


8月27日 森林科学科の渋谷先生、柿澤先生と、普段は苫小牧研究林にいる技術職員の杉山さんの3名と、 学生さん4名(←宿泊キャパシティの関係で人数少ないです)は、前日から入っていて、私は遅れてこの日の朝に合流しました。
まずは、庁舎でガイダンス。今日は、スギ人工林で毎木調査を行い、間伐の計画をたてるというプログラムです。

くるまに分譲して、20分程で檜山研究林内の対象地へ。 檜山研究林は、1956(昭和31)年に上ノ国町から皆伐跡地約100haの移譲をうけて発足しました。この人工林(6林班)は、発足から間もない1963(昭和38)年植栽の、56年生のスギ人工林です。 

施業履歴を示す看板を見ると、1982(昭和57)年(19年生時)と、1987(昭和62)年(24年生時)に間伐が行われたことが読み取れました。

しかし、その後は、手入れを行うことができなかった「間伐遅れ」林分で、かなり混み合っています。 まずは、標準地の作成。今回は、30m四方のプロットをつくることになりました。学生さんは(北海道では渡島半島にしかないので) スギ人工林でははじめての調査です。 作業の手伝いをしながら、林内の様子を眺めて歩きます。良い天気に恵まれて、何よりです。

下層には、多くの広葉樹が育っていました。

昼前に作業は終了。研究林の一番奥にあるブナ二次林を見に行きました。 ヒバが樹下植栽されています。 大きなブナ、年輪数を調べてみたら70年生ほどだったとのこと。研究林発足の前に伐採された木からの萌芽起源なのでしょう。

帰りがけ、スギ林でのヒバ樹下植栽地と、研究林外のキリ植栽地。成長が、とても対照的です。

午後は、庁舎に戻って、データの入力と集計。道総研・林業試験場が作成した「道南スギ収穫予測ソフト」を用いながら、密度・材積・相対幹距・収量比数・形状比・樹幹長率などをまとめます。

現場では、単木の位置座標も計測してきたので、その図化も行いました。それをもとに、間伐の計画・図上での選木までが今日の仕事でした。

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8月28日 朝、昨日の現場へ。今日は、天気がやや心配です。 

昨日のまとめによれば、この林分のデータは下記のとおり
平均樹高 27.0m
平均胸高直径 40.7cm
立木密度 778本/ha
形状比 67.7
樹冠長率 16.2
収量比数 0.95
相対幹距 12.2
蓄積 1277m3/ha
蓄積の多さは、さすがスギ林。収量比数0.95と、ほぼ最多密度に近い状況ですが、意外に形状比が保たれ、成長もわるくない印象です。 

学生さんの間伐計画は、本数46%、材積41%で、収量比数を0.67まで下げるものでした。まずは、昨日、図上で選木した木にピンクテープを巻いていきます。 

その後、手直し。局所的に大きすぎる疎開部ができてしまうのを、一箇所ずつ直していきました。

現場で議論の後、庁舎に戻り、午前の残り時間、学生さんはレポートの作成。 

午後は、厚沢部町の鈴木木材さんを訪れました。 広葉樹の製材で、道北でもよく話題に出る有名な会社です。私はこれまでにも何回か訪れたことがあるのですが、今回も、いろいろとお話を伺うことができました。

いまは、夏に伐採された丸太の製材中でした。腐朽が速い、ブナやカンバから先に進めているそうです。板になったばかりのメジロカバ(ウダイカンバの芯材部が少ないもの)とザツカバ(ダケカンバのこと)。夏の製材で、カビの発生を気にされていました。  

人工林から出てきたクリ材は、腐朽が遅いので、製材は後回しになるそうです。割れや、各種の欠点をいかにリカバリーするか、いろいろ工夫がなされています。

扱う樹種は40以上! 多様性を活かした林業を考えるとき、鈴木木材さんのような存在が欠かせないことを、あらためて感じました。 

学生さんはそれぞれお気に入りの板を(おみやげに?)購入していました。写真は、技術職員の杉山さんが購入したイタヤカエデ。杢が美しいです。

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8月29日 今日は、昨日の午後に引き続き、檜山研究林周辺の森林・林業・木材に係る現地見学です。道庁・檜山振興局の方々にお出でいただき、まずは、管内の概要説明と、森林管理制度についてお話を聞きました。

続いて、現場へ。まずは、研究林に近い、上ノ国町字小森、指導林家である菊池時男さんの山。とてもきれいに手入れされた林です。菊池さんは、約8haの森林を所有し、うち6.7haが人工林とのこと。 

ヒバの苗木を挿し木で樹下育成していました。春に枝を採取、仮植して発根させ、3年くらい育てるそうです。カラマツの樹冠下に植栽した約20年生のヒバは、天然更新した広葉樹とともに、ていねいに育てられていました。 

林内で、シイタケ、ナメコの栽培も行っていました。ナメコの原木は、ブナとイタヤカエデ、とくに後者がよいのだとか。下刈りの際、山菜になるものは残しているとのこと。

次に、上ノ国町字北村の造材現場へ。現場は、63年生のスギ人工林。ちょうど、研究林内で調査をしたのと同様の林分だったと思われます。樹高が30m近くあります。地元の青年林業士、杉野さん(FOREST)が、説明してくださいました。仕事としては、主伐が多く、その後の植栽も請負っているそうです。作業員3名で、30-40m3/日(年間4000m3)の生産量とのこと。よく聞く話ですが、大径木は必ずしも有り難くないそうです。「太さより蓄積」。

あいにく、昨日の雨のため、現場はお休み。最後に、杉野さんが機械の操作を見せてくださいました。

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その後、昨日も訪れた厚沢部町に移動し、昼食。午後は、まず、森林組合へ。道の駅の2階という立地でした。
森林組合の由利課長、厚沢部町の藤八係長の方から、お話を伺いました。管内の私有林の人工林率は52%で、内訳はカラマツ、トドマツ、スギがおよそ3分の1ずつ。新植については、所有者の意向はさまざまであるものの、最近は、スギが6割ほどだそうです。この30年ほどの間、ヒバも見直され、約70haの植栽地があるそうですが、近年は減少傾向とのこと。

厚沢部町字共和の下刈りの現場へ。トドマツの伐採跡地に、カラマツが植栽(今春、2300本/ha)されていました。下刈り期間は3-4年だそうです。植栽樹種について議論。カラマツの後にスギはよくない?と経験的に言われるのだとか。ヒバについては、やはり、下刈り期間が10年近くなってしまうことが、近年の面積減少の大きな要因のようです。

続いては、厚沢部町鶉町にある鶉製材所さん。取締役の青木さんが説明してくださいました。樹皮や端材は、自社のボイラーで木材乾燥の熱源に有効活用しているそうです。今日は地域のお祭りのため工場は停止中ですが、製材機の近くに寄って、2機種あるタイプをじっくり眺めることができました。

無節の板。樹種ごとの特性についていろいろ教えていただきました。生産量は1000m3/月とのこと。伐採現場で太い材の話題が出ましたが、基本的には「来たものは拒まない」のだそうです。製材品は、道外への出荷が多く、また、別のラインで木材輸出も行っているとのお話を聞きました。  

町の中心部に戻り、木材利用として、認定こども園へ。「はぜる」は「飛び跳ねる」という意味。この4月に、町内の保育園・幼稚園3つを統合し、地域創生のシンボルとして開園したそうです。 園児は約100名。とても賑やかです。園の方から、幼児教育・保育の課題についてお話を伺いました。私たちは、林業の立場から地域振興を考えているわけですが、若い世代を支えるこのような施設は本当にたいせつだと感じます。

使用木材はすべて厚沢部町産材。木造平屋で、構造材、内装・外装材あわせて270m3が利用されたとのこと。張弦梁構造。町としても「木育」は重点項目とのことです。地域材利用推進方針を定め、ここの他にも、時間の都合で今回は回れませんでしたが、いくつかの木造公共施設があるそうです。 

盛りだくさんな今日のプログラムの最後は、江差町へ。日本一小さい道の駅。今年、クラウドファンディングで、道南スギ、ヒバを使ったリニューアルをしたとのこと。

江差町の「いにしえ街道」にある、木工品のアンテナショップ「木どりや カンナヅキ」。このお店、ヒバ、キリ、ウルシがキーワードです。かつて、この地にあったヒバの天然林は、北前交易の重要な物資であったそうです。その伐採のために、東北地方から入植した人々とともに、キリや、ウルシ塗りの文化が入ってきたとのこと。なるほど。 

実習はあと1日あるのですが、私は時間の都合でここまで。函館行きのバス時間まで、町内を散策。
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元気な学生さんと、たのしい3日間でした。お世話になった皆さん、有難うございました。